日本酒の5つの香りの表現と素材をダメにしてしまう香りとは?

花と日本酒

日本酒の香りは想像以上にバラエティー豊か

花や草木に例えられる「華やかな香り」
梅の花

いい香りの日本酒といえば、最初にイメージされるのが「花や草木のような」と表現される華やかな香りです。

これは一定以上に削ったお米を使用して低温発酵させる吟醸酒・大吟醸酒に多く見られる香りで、「吟醸香」とも呼ばれます。

吟醸香は一般に揮発性が高く、温めたり口に含んだりせずとも、低温の状態で器に注いだだけでしっかりと香ります。

日本酒のイメージから梅や桜などに例えられることが多いのですが、バラや梅、くちなしなど、酵母の種類や造り方によって様々なタイプの香りが存在します。

いろいろな果物を思わせる「フルーティな香り」
フルーツ

お米を原料とする日本酒ですが、まるで果物のようなフルーティな香りを持つものも少なくありません。

よく見られるのは、桃やメロン、リンゴの香りなどですが、他にもバナナやバニラの香りなどちょっと意外なタイプのものも。

香りと酸味のタイプが揃うと、本当にその果物を原料としているんじゃないかと錯覚するほどの銘柄もあり、一般的な日本酒があまり得意でない方にもおすすめできます。

日本酒らしい穀物系の「ふくよかな香り」
お米

日本酒の原料であるお米が本来持っている成分に基づいた香りが「ふくよかな香り」です。

どちらかというと、口に含んだり飲み込んだ後に感じることの多い香りで、炊いたお米やお餅を噛んだときの香り、穀物系の香りに例えられます。

日本酒全般に含まれている香りですが、特に純米酒や本醸造酒ではこれが際立っているものが多く、冷酒よりも燗酒にしたほうがより強く感じられます。

慣れない方だと、銘柄によっては「お酒臭い」と感じてしまうこともあるのですが、日本酒を飲みなれてくると非常に芳しい、良い香りに思えてくるはず。

また、このカテゴリーの香りがしっかりとしたお酒は、寿司やおにぎりなどご飯を使用した肴とも相性が良いので、ぜひ一度試してみてください。

「樽香」や「熟成香」など後から付与されるタイプの香り
杉

日本酒には、お酒が元から持っていた香りだけではなく、完成後に生まれたり付与されるものもあります。

「樽香(たるか)」は、完成した日本酒を木製の樽に詰めて寝かせることで付く、樽の材料である木の香りです。

樽の材料には基本的には杉が使用されており、これで寝かせることで杉林や新しい木製家具のような爽やかな香りを持つようになります。

お酒の輸送や貯蔵にビンやタンクを使用するのが一般的な現代では、木製樽での貯蔵は香り付け以外の目的ではほとんど行われません。

樽香の付いたお酒は「樽酒」と呼ばれ、お祭やお祝い事の席でおめでたい酒としてよく飲まれています。

「熟成香」は通常よりも長く貯蔵・熟成させた日本酒である「熟成酒」が持つようになる香りです。

日本酒は基本的に、造られて1~2年で飲まれることを前提としたお酒ですが、あえて数年~数十年寝かせることで成分が変化し、元とは大きく異なる味や香りになります。

熟成酒はカラメルや薬草、ドライフルーツのような独特な風味で、苦手に感じる人も少なくないのですが、好きな人にはたまらない香りを持っています。

以前はあまり見られなかった熟成酒ですが、近年は一般的に販売されているものも増えてきていますので、機会があれば一度チャレンジしてみてもいいかもしれません。

薬草

日本酒の香りは香るタイミングも重要

日本酒の香りは、「どんな香りか」だけではなく「どのタイミングで香るか」によっても区別されており、一般的には次の4種類に分類されます。

段階



一般的に、華やかな香りやフルーティな香りは上立香、含み香の早い段階で感じ、ふくよかな香りは吟香以降のじっくりと味わったときに感じやすいとされています。

上立香は揮発性の香り成分なので、これを特徴とする吟醸酒・大吟醸酒をしっかりと味わいたいなら、日本酒用の酒器よりも香りをためられるワイングラスのほうが適している場合も。

逆に純米酒などで含み香や吟香を楽しむ場合は、口先からゆっくりと流れこむお猪口などを使用するのが良いでしょう。

同じお酒の香りでも、香るタイミングによって印象が変わることも少なくないので、温度や酒器を変えてどう変化するか試してみるのも楽しいですよ。

日本酒をダメにしてしまう香りに注意!

一升瓶

日本酒の香りの中には良いものだけでなく、時に味わいまでダメにしてしまうような悪い臭いも存在します。

例えば、醸造や搾りに問題があったときに起こる「つわり香」や「袋臭」、「ろ過臭」などは、腐敗した臭いや放置したぞうきん、墨汁のような臭いとされています。

また、乳酸菌の一種である火落ち菌が繁殖してしまうことによる酸っぱい「火落ち臭」は、タンクのお酒全部がだめになっていることを示す、生産者にとっては恐怖の香りです。

しかし、こうした生産中の問題によって発生する悪臭は、設備や技術が改善され衛生環境を保ちやすくなった現代ではほとんど出会うことはありません。

遭遇する可能性が高いのは、どちらかというと小売や一般消費者に渡った後の保管環境の問題から発生する悪臭です。

日本酒は紫外線などの悪影響を受けにくい濃い茶色や緑色のビンを使用している銘柄が多いのですが、それでも強い光に当たり続けると劣化して「日光臭」が発生します。

これは酸っぱい臭いと焦げたような臭いが混ざった悪臭で、日光はもちろん人工的な光でも長時間当たり続けると発生してしまいます。

光を避けていても、異常な高温や強い振動に当たり続けると、良くない方向性の熟成によって「老香(ひねか)」が発生します。

せっかくのおいしい日本酒も、嫌な香りが出てしまっては楽しむことができません。

お酒を購入する際は適切な保管環境のお店を選び、あまり長期間放置せず早めに飲むようにしましょう。