江戸時代の頃からの生活の香りや風俗を、今に伝える落語。
当時の人々の人生の模様が鮮明に映されていますが、そうなると当然日本酒が絡むお話もあります。
物語の中で、人々はどんな風にお酒を飲んでいるのでしょうか。少しだけ、ご紹介します。
禁酒番屋
あらすじ:
昔々、ある藩での「月見の宴」の最中、酒に酔った藩士二人が諍いになり、一人が他方を切り殺してしまうという事件が起きた。
これに心を痛めた殿様、「わが藩では今後酒を飲むことを禁ずる」と禁酒令を出す。
しかし、そう簡単に酒がやめられない藩士たちが隠れて酒を飲むようになり、また大事になるのを恐れた重役たちが、屋敷の門に酒の持込を見張るための番屋を設けた。
そんな中、藩士の中でも一番の大酒飲みの近藤という男が酒屋にやってくる。そして、禁酒令など知ったことかと店先で2升も飲み干し、「気に入ったから部屋にも1升届けてくれ」と言い残して帰ってしまう。
酒屋側も商売、元々上得意の客の頼みを無碍に断るわけにも行かないが、そのまま届けに行っても禁酒番屋で荷を改められれば取り上げられてしまう。
そこで、徳利を箱に包んで「ご進物のお菓子」として持って行くことにするが・・・。
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なんとかして酒を持ち込みたい酒屋と、お役目だからという名目で酒を取り上げて飲みたい藩士のやり取りがおもしろおかしく描かれます。
結局登場人物みんな酒好きなのも、同じ酒好きとしては非常に好感度が高いところ。
少し下品な描写がはいるので、気にされる方はご注意を。
親子酒
あらすじ:
あるところに酒好きの親子が暮らしていた。
しかし、この息子が酒癖が悪く、心配した父親はある日「何もお前だけにやめろとは言わない。俺も酒を断つから一緒に禁酒をしよう」と提案。息子もこれを受け入れ、親子で酒を断つことにする。
だがそこは酒好き、はじめは良かったものの半月ほどもすると酒が飲みたくてたまらなくなってくる。
ある日、父親はついに誘惑に耐え切れず酒を飲んでしまい・・・。
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禁酒中に酒の誘惑に耐えるも、結局飲んでしまうという身につまされるテーマの笑い話です。
酔っているのに酔っていないフリをする演技が上手な噺家さんは、実際やったことがあるのかも。
全体的に短い話なので、他の話と混ぜて演じられることもあるようです。
蝦蟇の油売り
あらすじ:
大通りで物売りをする蝦蟇の油売り。
ぺらぺらとでる口上で蝦蟇の油の効能を語り、仕掛けをしてある刀で自身の腕に傷をつけたように見せかけ、即座に蝦蟇の油で消してみせる。
もちろん、蝦蟇の油はインチキな、ただの油軟膏である。
荒稼ぎした男が酒を飲みいい気分で通りに出ると、まだまだ人通りがある。
酔った頭でもう一儲け、と考えた男は再び口上を唱えだすが・・・。
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「一枚が二枚、二枚が四枚…」という口上だけなら知っているという方も多いのではないでしょうか。
前半はみごとなまでにすらすらと回っていた口が、酔っていかにぐだぐだになるかが見所。
お酒が入っているときに刃物なんか扱うとどうなるか。教訓的なお話でもあったようです。
試し酒
あらすじ:
あるお店に、馴染みの客が下男を連れてやってくる。
その客が、「うちの下男は大酒飲みで、5升でも飲めるんだ」と自慢するが、店主はそんなに飲めるはずがないという。
ならば賭けをしよう、ということになるが、下男は気乗りしない。しかし、受けなければ主人の負けだと言われ、ちょっと待って欲しいと言い残してどこかへ行ってしまう。
しばらく待っても帰らず、賭けは店主の勝ちかと思われたとき、ようやく下男が帰ってくる。
そして、さっそくがぶがぶと酒を飲み始め・・・。
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禁酒番屋のような大酒飲みの話ですが、酒量のスケールが違います。
5升!つまり一升瓶が5本、9Lです。
昔はお酒を薄める割合について規制がなく、今よりもかなり度数が低かったということですが、例え今の半分の度数だったとしても絶対に飲めません。
しかもオチは・・・。こんなに飲めると、逆に酔うためのコストがかかりすぎるでしょうからあまりうらやましくはないですね。
猫の災難
あらすじ:
熊五郎という男が休みの日に、酒が飲みたいが酒も肴も金もない、と煩悶していると、隣のおかみさんが鯛のあらを持ってきてくれる。
聞けば、飼っている猫の病気見舞いに食べさせたあまりだという。ありがたく頂戴して、しかし見栄えが良くないので骨だけの身の部分に皿をかぶせて置き、さて酒はどうしようかと考えていると、近くに住む兄貴分がやってくる。
「良い鯛があるじゃないか。よし、酒は俺が買ってやるから、こいつを肴に飲もう」
兄貴は鯛があらだけだということに気づかず、酒を買いにいってしまう。
渡りに船と喜んだのもつかの間、兄貴が戻ってきたときに鯛があらだけだとばれたら、怒られて酒も飲ませてもらえない。
どうしても酒が飲みたい熊五郎は、捌いた鯛の身を猫がさらっていってしまったということにしようと思いつき・・・。
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お金はないけどお酒は飲みたい、という男の必死な努力がおかしい、落語らしいお話です。
貧乏長屋の住人や、いわゆる「与太郎」的なキャラクターは、お酒が絡むとまたいっそうリアルですね。
タイトルには猫とはいっていますが、お話の中に出てくることはありません。(上方落語ではまた少し筋が違うようですが)
)熊五郎が「肴がない~」と言っている所でちょっとどきっとした猫好きの方も、ご安心ください。
二番煎じ
あらすじ:
年の瀬も迫った江戸の町、火事を防ごうと町内の旦那衆が持ち回りで見回りをすることになる。
しかし、寒空の下、冷え込む夜の見回りに旦那衆はあまり乗り気ではない。
寒いからと拍子木ごと手を引っ込めてしまったり、鉄棒は冷たいからと紐で引きずって歩いたり。
そんな調子なので、番小屋に戻り別の組が出ている間も真面目に待っているはずもなく、一人が酒を持ち込んでくる。
当然見回り番の間の飲酒は禁止だが、「これは風邪の煎じ薬だ」と言って飲み始め、それじゃあこれは薬の口直しだ、とつまみも食べ始め、ついには鍋まで作って宴会を始めてしまう。
そこに、見回りの侍が通りがかり・・・。
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見回りには身が入らないのに、飲むとなったら途端につまみをあれこれ用意して鍋まで始めてしまう、行動力の差がたまりません。
こういうお話に出てくる人々が、みんななんだかんだいって飲みたいんだね、というのも共感できますね。
いかがでしたでしょうか。
気になるお話があったら、ぜひ実際に噺家さんが演じている作品を探してみてください。
お酒が飲みたくなる…か、ちょっと控えようかな、となるかはお話次第かもしれませんが。