全国各地にその地域に深く根ざした蔵元がたくさんあり、日本酒が「地元で飲まれるもの」「近所の中から好きな味を選ぶもの」という性質を色濃く持っていた時代、よほど大きな蔵でなければ特に大きな宣伝を打つ必要はありませんでした。
もちろん、たとえばTVCMや電車の社内広告などで有名な蔵もたくさんありますし、戦前・戦後から現代まで、都市部、特に東京、大阪で拡販しようとする場合、広告が必須であったことは事実です。
しかし、現代のように「地方にあり有効な広報ができなければ、販売拡大以前に生き残りが難しくなる」というのは、今までなかった状況といえるでしょう。
その背景には、人口の減少や都市部への人口集中、そして輸送技術の発達により全国のあらゆる商品が競合になりうるという状況があります。
インターネットを利用した広報
インターネット上での広報は、比較的若い、消費意欲が旺盛な層に対してアピールしやすいだけでなく、別の検索ワードの関連項目として表示させたり、通販のサイトと連動してすぐに購買活動につなげたりと、「関心がある」状態から「購入する」へつなげやすいという利点があります。
そのため、より美しく情報量の多いHPを作成したり、たくさんの人が利用する情報サイトに広告記事を載せたりと、技術の進歩に合わせてできる限り効果的な方法が取り入れられてきましたが、近年では特にFacebookやTwitterなどのSNSを導入する蔵が増えているようです。
これらは、単純に情報を発信しやすいだけでなく、顧客からのニーズや感想を受け取りそこにまた返信をするというコミュニケーションのツールとして使用することができます。
これによって、時に無機質な情報発信や売買で終了してしまいがちなインターネット上でも、実際に蔵の直販所で販売しているときのような対話や交流ができ、常連客やファンを獲得することができます。
そして、そのやり取りをその他の大勢の人々が見、結果として興味を持ってもらえばさらに新しい見込み客が増えていきます。
つまり、物理的に蔵の周囲に十分な日本酒消費人口がいなかったとしても、全国各地に常連として定期的な購買を続けてくれる人々を確保することで、インターネット上に「地元」を作ることができるのです。
この試みはまだ始まったばかりですし、そもそも意識的に行っている蔵ばかりではありませんが、実際のやり取りと見ていると、すでにじわじわと効果が現れ始めているようです。