燗酒の魅力は日本酒らしい旨味と甘味
日本酒を常温よりも温め、30~50度程度の温度で味わう「燗酒」。(燗とは日本酒を温めることを表し、「燗をつける」と表現することもあります)
冷やして飲む「冷酒」に比べてクラシックな飲み方ですが、この燗酒の最大の魅力はなんといっても「日本酒らしい旨味や甘味を味わえること」といえます。
良い日本酒はお米由来の優しい旨味を持っており、原料となった酒米の特徴を反映しているもの。
しかし、人の味覚は温度によって感じ方が大きく変わるため、低温ではこの旨味をしっかりと捉えきることができません。
燗をつけて温度を上げることで旨味を感じ取りやすくなり、ご飯を良く噛んだときのような馴染み深いおいしさを堪能できるようになるのです。
また、強い炭酸やタンニンなどを含まない日本酒は、低温のままだと油脂などをうまく洗い流すことができませんが、燗酒であれば魚や肉の脂肪分にも対応可能。
温度を上げることで味も強く感じられるようになるので、伝統的な和食だけでなく現代の食事にも合わせやすくなります。
銘柄によっては、温度を上げると味や香りのバランスが崩れてしまう(燗崩れ)ものもありますが、逆に燗をつけることでおいしくなる(燗上がり)ものも少なくありません。
日本酒らしいおいしさを感じやすくなるお燗は、適したお酒さえ選べれば、実は初心者にもおすすめの飲み方なのです。
日本酒の温度と味わいの関係や上手な燗の付け方について詳しく知りたい方はこちら
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燗酒で飲むのがおすすめの銘柄5選
田酒(でんしゅ) 特別純米
まだ日本酒に慣れていない初心者の方でも「日本酒らしいおいしさ」を堪能できる、ベーシックながら上質な味わいの銘柄です。
田酒は、近年の有名銘柄が持つような際立った印象を持つわけではない、言ってみれば「普通の日本酒」に分類されることの多いお酒です。
果物が原料かと間違われるようなフルーティさも、水のように飲める軽さや透明さも、驚くような味の濃さも持っていません。
しかし、お米の甘味や旨味、発酵によって生まれる酸、ふくよかな香りなど、日本酒らしい「普通の特徴」をひとつひとつ研ぎ澄ませていくことで、結果として他の銘柄とは一線を画す高クオリティな味わいに到達しています。
しっかりした造りになっているので燗をつけても崩れることがなく、むしろ温度を上げることで旨味がふわりとほころぶように開き、より深い味わいを楽しむことができます。
初心者にとっても嫌なひっかかりがなく、意識せずにするすると飲み進めてしまうため、気が付いたらなくなっていた、なんてことも。
「普通を極めることでここまでおいしくなる」という、日本酒の可能性を体現しているようなお酒だといっても過言ではないでしょう。
菊姫 純米ひやおろし
程よく熟成した米の旨味をたっぷりと味わえる銘柄です。
ひやおろしは、搾ったあと半年の間寝かせてから、出荷前の火入れをせずに販売される「生詰め」というタイプのお酒の一種で、秋にお店に並ぶことから「秋あがり」とも呼ばれます。
暑い夏を越えてゆっくり熟したひやおろしは、新酒の頃の荒々しさが取れて優しい口当たりになり、旨味がしっかりと乗るのが特徴です。
“ひや”おろしという名称や、販売時に冷蔵庫に入っていることから、なんとなく冷酒や冷や(常温)で飲むことが多いのですが、実は燗上がりする銘柄が少なくありません。
特別契約した農家で栽培された最高級ランクの山田錦を使用している菊姫のひやおろしも、そんな「燗にしておいしいひやおろし」のひとつ。
半年間熟成させた濃厚なお米の旨味と、温めてもだれないきれいな酸味をしっかり味わうなら、冷酒よりも燗酒のほうが絶対におすすめです。
冷やからぬる燗、そして熱燗と(20~50度)、少しずつ温度を上げていって味わいを変化させていくというのも楽しいですよ。
ひやおろしや火入れを省略する生酒について知りたい方はこちら
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にいだしぜんしゅ 燗ダッシュ
夏に販売されるお燗用の酒、というちょっと変わった癒し系の銘柄です。
生産者である仁井田本家は、無農薬のオーガニックな原料とできるだけ手を加えない醸造手法で造る「自然酒」をコンセプトとする蔵元。
お酒はいずれもクリアな口当たりで、臭みやひっかかりのないなめらかな味わいを持っています。
そして、この「燗ダッシュ」では、にいだしぜんしゅシリーズの特徴の一つであるフレッシュさや炭酸の感触はあえて封印。
穏やかで落ち着いた酒質と、お燗をつけたときに優しく膨らむ甘味・旨味が特徴の、じんわりとしみこむような滋養深い味わいです。
暑い時期にはついつい冷たい飲み物を求めがちですが、体温よりも低い温度のものを大量に飲むのは内臓に負担がかかります。
昼の暑さに疲れた夜には、あえてぬる燗(40度前後)をつけたこのお酒で、胃腸をいたわってみてはいかがでしょうか。
誉池月 燗専辛口純米酒
お燗をつけたときにもっともバランス良い味わいになるように調整された銘柄です。
人の味覚は温度によって感じ方が変わり、お酒側も香り成分やアルコールの発散の仕方が変わってくるため、冷酒と燗酒では同じお酒でも印象が大きく変わります。
そのため、日本酒は銘柄によっておいしく飲める温度帯が変わり、冷酒ではおいしいのに燗をつけるとちぐはぐになる「燗崩れ」を起こす銘柄も少なくありません。
この「誉池月 燗専辛口純米酒」はその逆で、燗をつけたときにもっともおいしい状態になるように調整されたお酒です。
常温で飲むと、旨味が感じにくく酸が際立ったきつい印象の味わいですが、ぬる燗~上燗(40度~45度)くらいに温めると甘味が強調され口当たりが丸くなります。
純米酒らしいお米の旨味はありつつも、べたべたせずにさらっとした味わいになるのは、お燗用に調整された超辛口ならでは。
甘くないきりっとした燗酒を楽しみたい方には、ぜひ試していただきたいおすすめの銘柄です。
また、純米酒でありながら一升瓶で2000円前後という低価格帯も魅力の一つといえるでしょう。
五橋 木桶造り 生もと純米酒
現在では珍しい、木桶(きおけ)を使って造られたお酒です。
江戸時代まで日本酒は木製の桶で造られるのが当たり前でしたが、現代では温度や衛生面での管理がしやすいステンレスタンクが一般的です。
しかしこの蔵元では、あえて管理の難しい木桶で仕込むことで、発酵中に微量の成分を溶け込ませ、複雑で奥行きのある味わいのお酒を造っています。
特に印象的なのが、森の中や木製家具売り場に漂うような優しい木の香り。
お祝いの席用として、搾ったあとに木樽を使うお酒は良く見ますが、新品の樽を使用するため木の香りが非常に強くなり、初心者には飲みづらいものも少なくありません。
その点、このお酒はごくほのかな木の香りなので、お酒本来の味や香りを邪魔しない程度のアクセントとして楽しむことができます。
そして、ぬる燗(40度前後)をつけることでこの微かな香りが膨らみ、複雑な味わいの上にやさしい木の香りが浮かび上がってなんともいえない味わいになるのです。
ただし、空気中の菌を利用する「生もと造り」のお酒なので、一般的な銘柄よりも苦味や酸味がくっきりと強く、温度を上げすぎるときつい印象になってしまいます。
燗をつける際は、ぬる燗から熱くても上燗程度(40度~45度程度)までになるよう注意しましょう。