温度にこだわって日本酒をよりおいしく飲もう

熱燗

日本酒の特徴のひとつとして、いろいろな温度帯で飲まれることがあげられます。

部屋の温度になじませた常温や冷蔵庫などでしっかり冷やした状態はもちろん、熱さを感じるほど温める「燗(かん)」もメジャーです。

でも、どの日本酒でもどんな温度でもおいしく飲めるというわけではなく、タイプごとに相性の良い・悪い温度帯があります。

ここでは、お酒のタイプごとにおいしく飲みやすい温度や、逆にお酒の好みからおすすめの温度帯をご紹介いたします。

「冷や」や「燗」など日本酒の温度ごとの呼び名について詳しく知りたい方はこち

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温度が変わるとお酒の味や香りの感じ方も変わる理由

酒

そもそも、なぜおいしく感じる温度とそうでない温度があるのでしょうか。

その理由は、大きく分けて「おいしさを感じ取る人間の味覚側の変化」「日本酒自体の状態の変化」の2つに分けられます。

味覚は温度によって感じ方が大きく変わる

人間の舌は、甘味や酸味の感じ方が温度によって変わるようにできています。

一般的には温度が低いほうが酸味を感じやすく、温度が上がると甘味(旨味)や辛味を感じやすくなります。

日本酒を「おいしく感じる」とは、これらの味わいのバランスが取れているように感じられる状態です。

そして、味わいの成分はお酒ごとに大きく異なっているため、どの温度でバランスが取れるかも変わってくるのです。

例えば、きりっとした刺激的な酸味が特徴のお酒はよく冷やした状態のほうがおいしく飲めますが、甘味が重要なタイプのお酒は同じ温度帯では十分楽しめません。

逆に、日本酒らしい旨味を感じられるやや高めの温度では、酸味主体のお酒はぼやけて締まりのない味わいになってしまいます。

揮発性の成分は温度が上がるとより発散しやすくなる

日本酒に含まれるアルコールや香りの一部など揮発性の成分は、温度が高くなるほど発散しやすくなります。

アルコールは水よりも沸点が低い物質です。

もちろん、お酒を温めるといっても沸騰するまで加熱するわけではありませんが、それでも温度が高いほど揮発しやすくなり、口に近づけたときにアルコールを感じやすくなります。 また、日本酒の香り成分の中でも「吟醸香」の元となる有機酸は揮発しやすい性質があり、常温でも十分感じ取れるほどです。

そのため、冷たいお酒はアルコールや香りを感じにくくなり、温度が上がるほどきつく感じるようになっていくのです。

ラベルに注目!種類別おすすめ温度帯

様々な酒

日本酒は銘柄によって様々な特徴を持っているため、どんな温度でおいしく飲めるかも厳密にはそれぞれ異なっています。

しかし、カテゴリーごとにある程度決まった適温があるのも事実です。

ここでは、ラベルに必ず記載されている「純米酒」「吟醸酒」といった特定名称ごとに、おすすめの温度を見てみましょう。

特定名称 おすすめ温度帯 ポイント
本醸造 35~40度
(ぬる燗~上燗)
やや高めの温度で旨味を堪能。
酸味が強いタイプは温めすぎに注意。
純米酒 15~30度
(涼冷え~日向燗)
銘柄ごとに適温が大きく異なる。
低めの温度から徐々に探ろう。
吟醸・大吟醸 5~10度
(雪冷え~花冷え)
冷蔵庫でしっかり冷やす。
冷やしすぎると香りが弱まる恐れも。
純米吟醸・純米大吟醸 10~15度
(花冷え~涼冷え)
香りと味わいのバランスをチェック。
体温を利用して注意深く温めよう。
原酒・生原酒 5~10度
(雪冷え~花冷え)
通常より濃厚なので冷やして抑える。
それでも濃ければロックも試して。

本醸造酒は「35度~40度」がおすすめ

旨味はありつつ飲み口がすっきりしている本醸造酒は、ぬる燗~上燗(35~40度)がおすすめです。

香りが強すぎず味わいも調整されている本醸造は、高めの温度でもきつさを感じにくいカテゴリーのお酒。

温度が少しずつあげながら、旨味がどうやって変化していくかを感じてみるのも楽しいかもしれません。

ただし、酸味の強いタイプの銘柄はあまり温度を上げるとバランスが崩れてしまう恐れもあります。

純米酒は「15~30度」と幅広い温度で

日本酒らしい味わいを楽しめる純米酒は、涼冷え~日向燗(15~30度)くらいの幅広い温度帯で試してみましょう。

お米を削りすぎず味わいをしっかりと残している純米酒は、銘柄によってさまざまなタイプが存在するカテゴリーです。

酸味が強めならやや冷やす、甘味を十分感じたいなら少し温めるなど、そのお酒の特徴と自分の好みに合わせた温度を探ってみましょう。

ただし、良質な純米酒は、酸味や甘味、旨味、苦味などが絶妙なバランスを保っています。 これを冷やしすぎたり温めすぎたりすると、せっかくの味わいが崩れてしまうので、やりすぎには注意が必要です。

吟醸・大吟醸は「5度~10度」まで冷やす

華やかな香りが特徴の吟醸酒・大吟醸酒は、しっかりとした冷たさを感じる雪冷え~花冷え(5~10度)くらいまで冷やしましょう。

「吟醸香」と呼ばれるフルーティな香りを最大限に生かした吟醸・大吟醸は、冷やした状態でも十分な香りを楽しむことができます。

これを必要以上に温めてしまうと、上がってくる香りが強くなりすぎてしまう恐れがあります。

温度が上がると甘さも感じやすくなるため、味わいのバランスが崩れたり香りの強さと相まって全体に甘ったるい印象になる可能性も。

香りが感じられないほどキンキンに冷やす必要はありませんが、少なくとも飲み始める1時間前には冷蔵庫に入れるなどして十分温度を下げてから開栓しましょう。

純米吟醸・純米大吟醸は「10度~15度」で

同じ香り重視のカテゴリーでも、頭に「純米」とつく吟醸酒・大吟醸酒は少しだけ高めの花冷え~涼冷え(10~15度)くらいがおすすめです。

醸造の最後にアルコールを加えて香り成分をしっかりと溶かし込む「吟醸酒・大吟醸酒」に比べて、純米のほうは香り成分自体がやや控えめです。

また、アルコールによる調整が入っていない分旨味などが比較的濃厚で、香りだけでなく味わいも楽しめるようになっている銘柄が少なくありません。

そのため、温度を下げすぎてしまうと味も香りも感じにくいぼんやりしたお酒になってしまうのです。

揮発しやすい香り成分も多いので常温よりは冷やすべきですが、冷やしすぎないように注意しましょう。

原酒・生原酒は「5度~10度」で引き締める

日本酒とは思えないほど濃厚で強い味わいを持つ原酒・生原酒は、雪冷え~花冷え(5~10度)くらいまでしっかりと冷やして味わいを引き締めます。

一般的な日本酒のアルコール度数は14~15度前後になるよう調整されていますが、原酒は発酵したままの18~20度前後。

また、水で希釈していない分アルコール以外の成分の濃度も高めになっているため、非常に濃厚な味わいになっています。

ただでさえ強い味や香り、アルコール感などのバランスを取るため、しっかりと冷やす必要があるのです。

冷やしてもまだ濃く感じる場合は、氷に注いでロックで試してもいいかもしれません。

好きなお酒のタイプごとのおすすめ温度帯

日本酒

特定名称のカテゴリーごとにおすすめの温度があるのは確かですが、絶対にその温度でなければいけないというわけではありません。

セオリー通りの温度を守ったとしても、それで自分の好みから外れてしまっては本末転倒です。

ここでは、好みのお酒のタイプごとにおすすめの温度をご紹介します。

すっきりした飲み口ならやや冷やし気味に

飲み込んだ後の後味がすっと消えるようなすっきりとした飲み口のお酒が好きな方は、通常よりもやや冷やした状態で飲んでみてください。

お酒の温度が下がると、酸味が強く、甘味や旨味は弱く感じられるようになります。 そのため、同じ日本酒でも口内に後味が残りにくくなり、いわゆる「キレ」があるように感じやすくなるのです。

深いコクはやや高めの温度で

しっかりとしたコクを感じられる味わい深いお酒が好みなら、通常よりも温度を上げてみましょう。

コクとは、味わいの種類が次々と変わりながら残ることによって得られる感覚です。

温度が高まることによって旨味や甘味が強く感じられるだけでなく、微細な味わい成分も余すところなく感じ取れるようになります。

温度を上げてから冷ますと味が崩れてしまうので、少しずつ味見をしながら温め、ちょうどよい温度を探りましょう。

立ち上る香りを楽しむなら注意深く温めて

日本酒のふくよかな香りを楽しみたい場合も、通常よりやや高めの温度がおすすめです。

香りの成分は温度が高いほど揮発しやすくなり、酒器に口をつけたとき、お酒を口に含んだとき、飲み込んだ後のいずれも香りを感じ取りやすくなります。

ただし、最初から香りの強い吟醸酒や大吟醸酒の場合、ほんの少し温めただけで香りが強くなりすぎる恐れも。

特にフルーティな香りと酸味・甘味が果物を感じさせるような銘柄は、温めすぎると香りだけでなく味わいのバランスも崩れてしまいます。

こうしたタイプのお酒の温度を上げるときは、お湯につけたりするのではなく、グラスに注いで手のひらで包むように持ち、体温を利用して少しずつ温める方法を試してみましょう。