都市部を中心として産業の急速な発展と変化が進んだ高度成長期前後、華々しい職種やより高額な報酬が望める業種に人気が集中し、酒造業界をはじめとする昔ながらの製造業は後継者の不足に悩まされました。
現在、長引く不況の影響による「有利な職業」という幻想の崩壊や、ライフスタイル・職業選択の多様化から一極化は緩和されましたが、それでも日本酒業界を取り巻く人材不足は深刻な状況です。
その一因としては、冬季に蔵人として出稼ぎに来ていた農業従事者の人口減少や高齢化もあげられます。
かつては取引先の農家や近隣からの求人に頼っていた蔵人の募集も、近年ではインターネットの普及によって全国に向けて発信することができるようになっています。
地元だけではうまく条件が合わなかった蔵と求職者でも、求人の範囲が広がることでマッチングできる確率は高まります。
また、業務内容について見直しをし、観光施設、飲食店の経営や営業、事務といった夏季にも行える業務を割り振ることで、寒造りの蔵でも期間雇用でなく通年雇用をできるようにするなど、不安定なイメージを除く努力をしている蔵も増えているようです。
普段は他業務に当たる人員を増やすことによって繁忙期の作業人数を確保、一人当たりの業務量を軽減して「造り期間は休みなし」というような超過勤務を防止するという効果も期待できます。
また、杜氏制を廃して社員による醸造を行うことで、高齢化で減少し続けている杜氏・蔵人の技術継承問題に対応している蔵もあります。
「技は習うのではなく盗む」「一つの仕事を生涯続けていく」というかつての常識に基づいた徒弟制では受け継いでいくのが困難になりつつある伝統的な技術を、現代の考え方に合わせつつ何とか引き継いでいくための施策と言えるでしょう。
もちろん、いまでも杜氏制を採用している蔵元のほうが圧倒的に多く、秋から冬にかけての繁忙期は休みが一切なかったり、昼夜問わず肉体的に厳しい労働条件であるのが普通ではありますが、環境が多様化することで求職者も自分の体力やイメージに合った蔵を探しやすくなり、地元の蔵元の話だけを聞いて「自分には酒蔵業界は無理だ」とあきらめる、という双方にとっての機会損失を減らせるはずです。