日本酒の原料はシンプルで、酵母や麹菌などの微生物を除けば、基本的にはお米と水だけでできています。
だからこそ、原料の質はお酒の品質を左右する重大な要素であり、全国の蔵元がよりよい酒米と仕込み水の確保に心を砕いています。
しかし、酒米は一般的に食用米よりも栽培が難しく、面積あたりの収穫量も少なくなります。
特に山田錦に代表される高級な米は、栽培される地域によっても品質が変わるため、どこででも作れる訳ではありません。
農業従事者自体が減ってきていて、今現在酒米を栽培している農家も農業を辞めてしまうというケースが増えることが予想される以上、良いお酒を作ることのできる原料米が次第に確保しづらくなる可能性は高いと言わざるを得ないでしょう。
では、特に人間が作っているわけではない水についてはどうでしょうか。
残念ながらこれについても、楽観はできないようです。
もともと、日本酒の仕込みに使用する水は、ほんのわずかな成分の違いでも出来上がりに大きな影響を及ぼします。
明治以降、人口の増加や急激な開発が山間部など酒造りの行われている地域の水源に影響を与え、かつて良酒を生み出す銘水と呼ばれた水を使えなくなるケースが相次ぎました。
降った雨が地面にしみこみ、山などを天然のろ過装置として通過し湧き出してくるのに数十年、場合によっては百年の歳月がかかることを考えると、これから影響が表面化してくる地域もあるということも十分考えられます。
また、人口の減少による都市部への集中や林業の衰退によって、山の環境や河川流域の状況が変わり、水質が変化する可能性もあります。