日本酒をできるだけおいしい温度で楽しむには
日本酒は温度によって味や香り、口当たりが大きく変わるお酒です。
第一印象がいまいちだった銘柄でも、そのお酒や自分の好みに合った適切な温度に調整してあげるだけで、驚くほどおいしく変身する可能性があります。
逆にどんなにおいしいお酒でも、適当な温度では魅力を十分引き出すことはできません。
日本酒をさらにおいしく飲むための、正しい温度調整の仕方をチェックしてみましょう。
どのタイプのお酒をどの温度帯で飲むのが良いのか詳しく知りたい方はこちら
「冷や」や「燗」など日本酒の温度ごとの呼び名について詳しく知りたい方はこち
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冷蔵庫や氷水を使用して日本酒を冷やす
酸味や甘い香りが特徴のお酒は、冷蔵庫や氷水などを利用して冷やします。
常温からどれくらい温度を下げるのか、どんな飲み方をするのかなどによって適切な方法を選ぶようにしましょう。
冷蔵庫で冷やす
開栓前の瓶を冷蔵庫に入れ、全体的に温度を下げる方法です。
飲み始めるときにはすでにしっかり冷えており、徳利などと違って再栓するのも容易なので、酸化や香りの発散を気にせず楽しむことができます。
瓶自体が冷えているため、そのままにしておいてもしばらくは冷えたままの状態を維持できるのもメリットだといえます。
ただ、室温や湿度が高いと瓶の外側に結露が発生するので、テーブルが水浸しになったりラベルがはがれてしまう可能性もあります。
また、家庭用冷蔵庫で十分時間をかけてしっかり冷やす(6~8度前後)と、冷えすぎて味や香りがわかりづらくなる銘柄もあるので注意が必要です。
氷水や流水を利用して冷やす
徳利や瓶を氷水を張った容器や流水に漬け、全体的に温度を下げる方法です。
一般的に冷蔵庫よりも素早く温度を下げることが可能で、思い立ってすぐに飲みたい場合にも威力を発揮してくれます。
バケツなどで数本まとめて冷やすこともできますし、水温を調整しておけば冷やしすぎも防止できます。
ガラス製の徳利には、側面から氷を入れて冷やせるようになっているものもあります。
大量の水を使用しますので、酔っ払ってこぼしてしまわないように注意しましょう。
グラスに氷を入れてロックで楽しむ
ややイレギュラーなやり方ですが、やや大きめの猪口やグラスを使用してブロック氷を入れ、ロックで飲むという方法もあります。
間接的に冷やす他の手法と違い、お酒が氷に直接接触するため一気に冷えるのが最大のメリット。
氷が溶けて薄まってしまうため、バランスの取れた良質な日本酒には推奨できませんが、加水していない原酒などの濃厚なお酒だと逆に飲みやすくなる可能性もあります。
一般的な日本酒は風味やアルコールが強すぎてちょっと苦手、という方が日本酒に慣れる方法としてもおすすめできます。
いずれの方法を選ぶとしても、冷やしすぎには注意が必要です。
現代では瓶ごと氷点下まで冷やすことも簡単にできてしまいます。
しかし、適温よりも低温の日本酒は酸味ばかりが強くなり、旨味や甘味など日本酒らしい味わいが感じ取りにくくなってしまいます。
また、揮発性の香り成分が発散しにくくなることから、香りの乏しい痩せた印象のお酒になる可能性も。
はじめて飲むお酒は、冷やしながらできるだけこまめに味わいをチェックし、そのお酒なりの適温を探るようにしましょう。
湯煎や電子レンジで日本酒を温める
日本酒らしい旨味・甘味をしっかり感じたいなら、冷や(常温)より温度を上げる「燗(かん)」がおすすめです。 湯せんによる方法が一般的ですが、どんな温度にするか、どれくらい時間をかけられるかによっては他の手法が使える可能性もあります。
沸かしたお湯で湯せん
60~80度ほどに沸かしたたっぷりのお湯を、耐熱性の容器に移してその中に徳利などをつけ、湯せんで温めます。
温度の上昇のしかたが緩やかで、狙った温度に合わせやすいのが特徴。
またお湯の量や温度、使用する器などを統一し浸けておく時間を計ることで、次回以降は時間を計るだけで好みの温度に合わせることもできます。
お湯の量によってはひと手間かかるのがデメリットといえばデメリットかもしれません。
火にかけて湯せん
お湯を鍋で沸かしているところに徳利などをつけて、直接湯せんします。
これはさらに「水から」と「お湯から」の2パターンに分けられます。
「水から」の場合、鍋の水と徳利の中のお酒の温度が同じくらいになるため温度を調整しやすいというメリットがありますが、時間はかなりかかります。
一方「お湯から」の場合、お酒の温度が急激に上がるため時間はあまりかかりませんが、好みの温度に合わせづらく温度が上がりすぎる可能性が高くなります。
一度温めたお酒を冷ますと味や香りが変わってしまうため、とても急いでいる場合や余裕のあるときでなければ、水から温める方が確実と言えるでしょう。
電子レンジでチン
徳利に入れて電子レンジで温めます。
温度ムラができやすく温度調整も難しいうえ、比較的冷めやすいためあまりお勧めできる方法ではありません。
ただし最近の高機能なレンジの場合、それらの問題点が改善された「お燗モード」がついている場合もあるようですので、試してみる価値はあるといえるかもしれません。
お湯を沸かしたり別の容器などを準備する必要も無いため、比較的手軽な方法です。
直火で沸かす
鍋ややかん等にお酒を注ぎ、直に火にかけて温めます。
鍋肌に当たっている部分が必要以上に温まってしまう可能性が高く、アルコールも飛んで変質してしまったりするので、よほど急ぐ事情がある場合以外はおすすめできません。
燗をつける際に気をつけなければいけないのは、「一度加熱したお酒を冷まして温度調整をしてはいけない」ということです。
日本酒は基本的に、加熱したあと冷ますと味や香りのバランスが崩れてしまうお酒です。(「燗崩れ」といいます)
そのため、できるだけゆっくりと時間をかけて温度を上げるようにして、温めすぎないように注意する必要があります。
また、適温のうちに飲みきれないほど一度に大量に燗をつけるのもやめましょう。
少し面倒ではありますが、1~2合ずつ徳利などに移し、飲みきるごとに改めて次の燗をつけるのが確実です。
飲んでいる間も適温を保つ方法
冷やしたり温めたりして適温ぴったりに調整できたとしても、飲んでいるうちに温度が変わっていってしまったら最初の一口以外はおいしく飲めません。
多少の温度変化はしょうがないにしても、できるだけ飲み頃の温度を保ちながら飲むための方法をチェックしてみましょう。
酒器も温めたり冷やしたりしておく
温度を調整した後にお酒を注ぐ徳利やお猪口などの酒器も、お酒に合わせて温めたり冷やしたりしておきましょう。
酒器に使用されるガラスや陶磁器は、何もしなければ基本的に室温と同じ温度になっています。
ここに温度調整したお酒をそのまま注ぐと、一気に温度が戻ってしまいせっかくの苦労が水の泡です。
完全に同じ温度にする必要はありませんが、冷蔵庫に入れたり温水につけるなどして酒器の温度をある程度お酒の温度に近づけておきましょう。
卓上にお湯や氷水を置いて容器を漬けておく
お酒を入れた徳利や瓶を、卓上の容器で保温するのも有効です。
大勢で飲んでいてお酒がどんどん減っていくようなときはともかく、一人、もしくは少人数だと飲むのに時間がかかり、最後のほうは室温近くにまで戻ってしまっていることも。
そんな事態を避けるため、ワインクーラーやボウルなどにお湯や水を張り、そこにお酒を漬けておくとよいでしょう。
ポイントは、できるだけ断熱性のある入れ物を使うことと、燗酒ならお酒より少し熱めのお湯、冷酒ならお酒より少し冷たい水をはっておくこと。
木の桶など雰囲気のある入れ物を用意できれば、実用だけでなく見た目にも楽しいですよ。
一度にたくさん注がない
徳利や瓶からお猪口などにお酒を注ぐときには、一度にあまりたくさん注がないようにしましょう。
手で頻繁に触り、口元も開いたお猪口などの酒器に入ったお酒は、注ぐ前の状態より温度が変化しやすくなっています。
空気に触れていると酸化して味や香りが変わっていってしまう恐れもあるため、注いだ後あまり時間をかけずに干せる程度の量に留めたほうがおいしく飲めます。
日本酒の温度ごとに合う肴(おつまみ)
冷酒には白身魚や鶏肉の肴を
すっきりとした酸味と華やかな香りを楽しめる冷酒には、白身魚や鶏肉などを使ったさっぱりした肴がおすすめです。
一例としては、白身魚の昆布蒸し、アサリの酒蒸し、冷奴、鶏胸肉などあっさりめの焼き鳥など。
お刺身やお寿司、ちょっと変わったところではミニトマトなんかも合わせやすいでしょう。 温度を下げて楽しむ冷酒は、一般的に甘味・旨味が抑制されてすっきりした味わいになります。
また、低い温度で飲むのに適したお酒には、フルーティな香りやそれに対応した甘味が特徴の銘柄が多く、臭みの強い肴とは相性があまりよくありません。
そのため、全体的にシンプルな味わいで、香りを邪魔しないタイプの肴が適しているのです。
ただし、低温でもしっかりとした旨味を感じられるお酒の場合は、燻製などの個性の強い肴でも良いかもしれません。
冷や(常温)は「ご飯に合うおかず」を基準に
日本酒らしい旨味がしっかりと出る冷やのお酒には、ご飯と合わせておいしいものであれば大体あわせられます。
お刺身、焼き魚、野菜の煮物、旨味の強いお酒ならイカの塩辛や酒盗などの癖のあるものも大丈夫です。
旨味や甘味、酸味などのバランスが取れる温度帯なので、温度というよりもお酒のタイプによって合わせる肴を変えたほうが確実かもしれません。
意外なところだと、軽く塩やごまを振ったご飯と合わせてもなかなかのおいしさ。
日本酒がお米から作られたお酒であることを強く実感することができるでしょう。
燗酒は癖のある料理や脂の多い肉・魚で
旨味・甘味やアルコール感が強調される燗酒は、ちょっと癖のある食べ物や脂の強い肉・魚とあわせてみてください。
具体的には、魚卵や白子の煮付け、あん肝、〆鯖、ブリやカツオのお刺身、モツ煮込みなど。
鶏もも肉など脂の強い部位やタレで味付けした焼き鳥などもマッチします。
口内にこってりと残る後味と燗酒の旨味が溶け合い、飲み込んだ後はアルコールによってさっぱりとするはずです。
温度が高めなので、低温では固まってうまく流れない肉や魚の脂との相性も比較的良くなります。
どこまで温めたお酒かにもよりますが、基本的に冷酒や冷やよりも一度に口に含む量が少なくなるので、肴も少量ずつ楽しめるものにするとさらに良いでしょう。